千葉地方裁判所 昭和50年(ワ)53号 判決 1978年2月28日
甲事件原告(乙事件被告)
水野丈夫
甲事件原告(乙事件被告)
鈴木慎次郎
甲事件被告
廣瀬聖雄
乙事件被告
田中静雄
主文
一、甲事件につき
1、被告は原告水野に対し金一四万二、二〇〇円ならびに原告鈴木に対し金三〇万三、二四〇円および右各金員に対する昭和四九年七月一六日以降各完済までいずれも年五分の割合による金員を各支払え。
2、原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
二、乙事件につき
原告の請求をいずれも棄却する。
三、訴訟費用は、甲事件につき生じたものについてはこれを十分し、その一を同事件被告のその余を同事件原告らの各負担とし、乙事件につき生じたものについては同事件原告の負担とする。
四、この判決は甲事件原告らが勝訴した部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一、当事者の求める裁判
甲事件につき
一、原告ら―「1.被告は原告水野に対し金一七七万七、五〇〇円ならびに原告鈴木に対し金二〇〇万円および右各金員に対する昭和四九年七月一六日以降各完済までいずれも年五分の割合による各金員を支払え。2.訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言
二、被告―「1.原告らの請求をいずれも棄却する。2.訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決
乙事件につき
一、原告―「1.原告に対し、被告水野は金一三万七、一四〇円ならびに被告鈴木は金一二万九、八六〇円および右各金員に対する昭和四九年一二月一日以降各完済までいずれも年五分の割合による各金員を支払え。2.訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言
二、被告―主文二項同旨と訴訟費用は原告の負担とするとの判決
第二、当事者の主張
甲事件につき
一、請求の原因
1、原告らはいずれも被告からその代理人である訴外田中静雄を介して、次のとおり実測面積による数量(坪数)を指示して土地を買受けた。
(一) 原告水野分
(1)契約締結日 昭和三八年四月一日
(2)目的土地 鎌ケ谷市道野辺囃子水台九三七番一〇所在山林
(3)数量 実測面積一七一坪(但し、登記簿上は八〇坪)
(4)代金 坪当り金二万円合計三四二万円
同原告は昭和四〇年六月二七日までに右代金を完済した。
(二) 原告鈴木分
(1)契約締結日 昭和四三年四月二九日
(2)目的土地 右同所同番七所在山林
(3)数量 実測面積一一二坪(但し、登記簿上は二畝五歩)
(4)代金 坪当り金三万八、〇〇〇円合計四二五万六、〇〇〇円
同原告は昭和四三年七月三〇日までに右代金を完済した。
2、しかるところ、原告らが買受けた右の各土地は右契約に反し、実測面積が不足している。すなわち、原告水野が買受けた土地は実測一六三・八九坪であつて差引き七・一一坪、原告鈴木が買受けた土地は実測一〇四坪であつて差引き八坪それぞれ不足している。
3、そこで、原告らはいずれも被告に対し、数量不足による損害賠償請求権を有するところ、その損害額は目的土地に数量不足がなかつたならば、買主が得たであろう利益と解されるので、買受け土地の時価をもつて算定されるのを相当とするところ、右土地の時価は坪当り金二五万円を下らないので、原告らの各損害額は次のとおりである。
(1)原告水野分
25万円×7.11-177万7,500円
(2)原告鈴木分
25万円×8=200万円
4、よつて、被告に対し、原告水野は金一七七万七、五〇〇円、原告鈴木は金二〇〇万円および右各金員に対する原告らが数量不足を知つた後である昭和四九年七月一六日以降各完済までいずれも民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二、右に対する認否
1、請求原因1項の各事実は、そのうち実測面積による数量を指示した売買であるとの事実を否認し、その余の各事実はすべて認める(なお、原告水野の代金完済時は昭和四〇年七月二七日である)。
すなわち、本件土地の売買はいずれも一区画ごとに特定された土地の売買であつて、数量を指示した売買ではない。
2、同2項の事実は争う。すなわち、被告は区画ごとに特定された土地を引渡すことにより、売主としての義務の履行を終つているものである。
3、同3項の主張は争う。仮に本件売買がいずれも数量売買であり、かつ、数量に不足があるものとしても、その損害額は買主が売買契約締結時に数量不足を知つていたならば、支払わなかつたであろう金額、すなわち、売買時における不足数量分の代金相当額というべきである。
三、被告の抗弁
1、原告水野は昭和四八年春か、遅くも同年夏までに本件土地売買の数量不足の事実を知つたものであるところ、これから一年四ケ月余も経過した昭和四九年一二月に至りはじめて訴外田中聖雄に対し、数量不足に関して権利を主張するに及んだ。右によれば、原告水野は一年間の除斥期間の経過により本件損害賠償請求権を行使できない。
2、本訴の提起は、原告水野にあつては売買契約後約一二年を経過し、原告鈴木にあつては同じく約七年を経過するものであるところ、民法五六四条にこの種の権利の行使につき、一年間の除斥期間を定めている立法趣旨からして、右のとおり長期間を経過している原告らの本訴請求はいずれも許されないものである。
四、右に対する認否
1、抗弁1項の事実は否認する。原告水野が数量不足の事実を知つたのは、昭和四九年七月一五日である。
2、同2項の主張は争う。
乙事件につき
一、請求の原因
1、被告らは昭和四九年六月ころ原告に対し、前記甲事件の各自の買受け土地につき、測量ならびに測量図の作成等に関する事務の処理を委託し、原告はこれを承諾した。
2、原告は右合意に基づき、直ちに土地家屋調査士江本弘をして、右各土地の実測、実測図の作成ならびに境界石の設定の各作業を同年七月一五日までに完了させた。
3、そこで、原告は昭和四九年一一月三〇日江本弘に対し、右の各作業に要した諸費用として、被告水野分金一三万七、一四〇円、被告鈴木分金一二万九、八六〇円をいずれも委任事務を処理するに必要な費用として立替え支払つた。
4、よつて、原告は被告ら各自に対し、右の各立替金およびこれに対する立替え支払つた日の翌日である昭和四九年一二月一日以降各完済まで民事法定利率年五分の割合による利息金の支払いを求める。
二、右に対する認否
1、請求原因1項の事実は否認する。
2、同2項の事実のうち、江本弘が原告主張の各作業をその主張の日に完了したことは争わないが、原・被告ら間の合意に基づくとの点は否認する。
3、同3項の事実は否認する。
第三、証拠関係(省略)
理由
第一、甲事件につき
一、請求原因1項の事実は、数量指示売買であるとの点を除きその余の各事実はすべて当事者間に争いがない(なお、原告水野の代金完済時は、甲事件原告水野本人尋問の結果によれば、被告主張の昭和四〇年七月二七日であることが認められる)。
二、そこで、まず右の数量指示売買の点につき判断するに、証人田中静雄の証言ならびに甲事件原告水野および同鈴木各本人尋問の結果と本件弁論の全趣旨を総合すれば、本件各土地の売買契約はいずれも実測による面積として坪数を指示したうえ、これに坪当りの単価を乗じて代金を定めたものであることが認められ、これが認定を左右するに足りる証拠はないところ、右認定事実によれば、本件各土地の売買契約はいずれも原告ら主張のとおりの数量指示売買と解するのが相当である。
三、次に請求原因2項の数量不足の有無につき判断するに、成立につき争いのない甲第六号証ならびに証人江本弘の証言および甲事件原告水野および同鈴木各本人尋問の結果によれば、原告水野の買受け土地は実測面積が一六三・八九坪(小数点三位以下切捨て)であつて、売買契約時の指示数量一七一坪から差引き七・一一坪の不足があること、原告鈴木の買受け土地は実測面積が一〇四・〇二坪(小数点三位以下切捨て)であつて、同じく指示数量一一二坪から差引き七・九八坪の不足があること、以上の各事実を認めることができ、これが認定を左右するに足りる証拠はない。
四、そうすると、被告は原告らに対し、右の数量不足につき、売主としての担保責任に基づき、原告らの被つた損害を賠償すべき義務を負担するものであるところ、その損害の範囲につき検討するに、もともと数量不足分については原始的不能により売買契約が成立していないものと解せられ、従つて、売主は不足分を買主に引渡すべき義務を負担していないものであるから、数量不足による売主の担保責任はいわゆる履行利益(不足がなかつたならば、買主が得たであろう利益)の損害ではなく、信頼利益(不足を知つたならば、買主が被ることがなかつたであろう損害)の損害の範囲に限られるものと解するのを相当とする。
これを原告らの本訴各請求についてみれば、結局、右不足坪数に売買契約時における前記の坪当り単価を乗じた金額となり、原告ら各自の損害額は次のとおりとなり、
原告水野につき、
2万円×7.11=14万2,200円
原告鈴木につき、
3万8,000円×7.98=30万3,240円
右の範囲内において原告らの本訴各請求は理由があるが、これを越えるその余の各請求はいずれも理由がなく、棄却を免れないこととなる。
五、次に被告の抗弁につき検討するに、抗弁1項は原告水野が昭和四八年春か、遅くも同年夏までに数量不足の事実を知つていたとの点は、本件全証拠によるもこれを認めるに足りず、むしろ、前出甲第六号証ならびに証人江本弘の証言および甲事件原告(乙事件被告)水野および同鈴木各本人尋問(いずれも一、二回)の結果によれば、原告水野が右事実を知つたのは昭和四九年七月一五日以降であることが認められ、被告の抗弁1項の主張はその余の点を判断するまでもなく理由がなく、また、抗弁2項は被告独自の主張であつて、主張自体失当である。
第二、乙事件につき
請求原因1項の事実は、これに副う証人田中静雄の証言および原告本人尋問の結果がいずれも証人江本弘の証言ならびに乙事件被告水野および同鈴木各本人尋問の結果に照らし採用できず、そのほか右事実を認めるに足りる証拠はない。
右によれば、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求は理由がないことに帰する。
第三、結論
以上の次第で、甲事件の各請求につき原告水野が金一四万二、二〇〇円ならびに原告鈴木が金三〇万三、二四〇円および右各金員に対するいずれも損害発生後の昭和四九年七月一六日以降各完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める範囲においていずれも認容し、これを越えるその余の請求をいずれも棄却し、乙事件の請求をすべて棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。